【徹底解説!】誰でもわかる、パワー半導体の基本

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世界中で脱炭素、GX(グリーン・トランスフォーメーション)化の流れの中、自動車の電動化や各種の省エネ化が進み、そこに使われているパワー半導体は需要がどんどん高まっています。

こんな方に読んでいただきたい
  • 半導体に興味関心がある
  • 特にパワー半導体を勉強したい学生さんや社会人の方

そんなパワー半導体ですが、ICやLSIといった通常の半導体とは何が違うのでしょうか。

この記事ではパワー半導体の基本について誰にでもわかるように解説します。

ぜひとも最後までご覧ください。

この記事を書いた人

【プロフィール】

  • 上場企業の現役半導体プロセスエンジニア
    (経験10年以上)
  • 多くの材料メーカーや生産委託先企業との業務経験あり
  • 著書を出版しました
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ずーぼ  
目次

動画で解説:パワー半導体の基本

パワー半導体とは電力を制御、変換する素子のこと

まずパワー半導体とは、パワーつまり電力(電気的エネルギー)を制御、または変換するデバイス(素子)のことです。そのためパワーデバイスとも呼ばれます。

明確な定義がある訳ではありませんが、通常は1W以上の電力を制御できる半導体を指しています。

パワー半導体と聞くとパワーそのものを生み出すようにも聞こえますが、そうではなくてあくまでも制御や変換を行うものです。

私たちの身近なところでは、発電所で発電された交流の電気を自宅で使う家電やパソコンに必要な直流の電気に変換するために使われています。電気の直流や交流はこの後で詳しく見ていきます。

ものの例えとして、半導体を人体に置き換えた場合を考えてみましょう。

一番わかりやすいのは、脳の部分でしょう。思考はCPUによる演算、記憶はメモリに置き換えられます。五感はセンサが担います。

ではパワー半導体はと言うと、筋肉ではなく筋肉に対して動くように指示を与える部分になります。実際の動作はモータやアクチュエータが担いますので、CPUからの指令を受けてモータやアクチュエータを効率的に動かすことがパワー半導体の役割です。

パワー半導体の機能

電気の直流と交流

パワー半導体の機能を知るうえで必要になりますので、ここでは電気の直流と交流の基本を確認しましょう。

直流とは・・・
時間とともに流れる向きと大きさが一定の電気のことです。DC(Direct Current)とも呼ばれます。家電やパソコンなどを利用するためにはこの直流の電源が必要です。代表的な直流電源は乾電池やスマホに搭載されているリチウムイオン電池、自動車に載っているバッテリーなどがあります。

交流とは・・・
時間とともに流れる向きと大きさが周期的に変わる電気のことです。AC(Alternating Current)とも呼ばれます。発電所で作られた電気は交流で、徐々に降圧されながら交流の電気が家庭用コンセントまで届きます。

私たちが家庭で使う電気は直流なのに、交流で送電される理由はさまざまなものがありますが、大きな要因としては交流の電気の方が容易に高圧ができ、高圧で送電する方が送電中のロスを減らすことができるためです。

直流と交流の変換

パワー半導体の主な機能は、先ほど見た電気の直流と交流を相互に変換することです。そのため以下の4つのパターンがあります。

  1. インバータ
    直流を交流に変換する
  2. コンバータ
    交流を直流に変換する
  3. AC/ACコンバータ(周波数変換)
    交流の周波数を異なる周波数に変換する
  4. DC/DCコンバータ(昇降圧)
    直流の電圧を上げたり、下げたりする

こうした機能を実現するためにパワー半導体が使用されています。ここではそれらの回路の詳細までは深堀しません。詳しく知りたい方は「パワーエレクトロニクス」の参考書を見てみると解説されています。

身近なパワー半導体の使われ方

パワー半導体は私たちの身近なところでたくさん使用されています。

冒頭で見ましたように家庭用コンセントの交流を直流に変換するために、パソコンやスマホの充電器の中でコンバータが働いています。

また冷蔵庫やエアコン、洗濯機といったモータで駆動する家電類にはインバータが搭載されています。モータは交流の電気で動くため(例外もあります)、最適な交流の電気をインバータで作って制御することで省エネ化が図られています。

他にもEV(電気自動車)や電車、太陽光発電や産業機器等々、大きな電気を取り扱う場面では必ずパワー半導体が目には見えない部分で働いています。

私たちの社会生活を陰ながら支えてくれている存在なのです。

パワー半導体の種類

パワー半導体の種類の全体像

パワー半導体を分類しますと、大きく整流素子とスイッチング素子に分けられます。

  • 整流素子:一方向のみに電流を流す
     ダイオード
  • スイッチング素子:オンオフのスイッチ機能
     パワーMOSFET、IGBT、サイリスタ等

スイッチング素子はその中で電流制御するバイポーラ素子と電圧制御するユニポーラ素子に分かれます。この辺りは通常のバイポーラトランジスタとMOSFETと同じ分かれ方になります。

ダイオードは整流作用を持った素子

ダイオードとは、一方向のみに電流を流す、いわゆる整流作用を持った素子のことです。

順方向と呼ばれる側に電圧を印加すると電流が流れますが、反対の逆方向に電圧を印加しても電流は流れません。
ただしツェナー電圧、または降伏電圧と呼ばれる電圧以上の逆方向電圧を印加するとブレイクダウンして電流は流れてしまいます。

この整流作用を利用して作られるのが整流回路で、交流を直流に変換するコンバータです。

半波整流回路はダイオードを1つ使い、入力が正の時のみ電流を流す回路です。全波整流回路はダイオードを4つ使い、入力が正負のときともに同じ向きで電流を流す回路です。ここに平滑用のキャパシタを使うことで直流に近い波形に変換することができます。

パワーMOSFETは高電圧を制御する

パワーMOSFETとは、高電圧を制御できるように設計されたMOSFETの一種です。

ICに組み込まれる通常のMOSFETはゲートをオンするとチャネルを通って電子がソースからドレインに流れます。この現象は半導体の極表面近傍で生じます。

一方パワーMOSFETはゲート電圧で電流を制御する点は同じですが、電流が流れる経路が縦方向になります。ドリフト層と呼ばれる層を設けることで高い電圧を印加しても壊れない耐圧を確保しています。耐圧の大きさによってドリフト層の濃度や厚みを設計します。

パワーMOSFETでは、ゲートの構造をトレンチ構造と呼ばれる溝を掘った構造が使われています。これはセルの微細化やオン抵抗と呼ばれるMOSをオンしたときに生じる抵抗を下げることで損失を低減できるというメリットがあるためです。しかし構造が複雑化しますので、製造工程も複雑化するというデメリットがあります。

パワーMOSFETは通常のMOSFETとは異なり、2層の拡散層が存在しますので、DMOS(Double-Diffused MOSFET)とも呼ばれいます。

IGBTはMOSとバイポーラの長所を兼ね備えたパワー半導体

IGBTとは、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor)の略称で、MOSFETとバイポーラトランジスタの長所を兼ね備えたパワー半導体です。

その断面構造を見ますと、先ほどのパワーMOSFETとほとんど変わりません。違いがどこにあるか分るでしょうか?
その違いは裏面電極上にp層が入っている点です。そして端子名がMOSのS(ソース)がE(エミッタ)となっており、D(ドレイン)がC(コレクタ)になっている点です。

IGBTはパワーMOSFETより、大きな電流を流すことができオン抵抗を低減できるというメリットがあります。一方でスイッチング速度はパワーMOSFETよりも劣ります。そのため、高速なスイッチング速度が求められる場面ではパワーMOSFETが、より大電流を制御する場面ではIGBTといった形で適材適所の使い分けがなされています。

IGBTの構造も年々進化しています。IGBTのスイッチング速度を上げ、短絡大量を高める構造がありますが、製造工程の難易度とのトレードオフの関係になっています。

パワー半導体を集積化したパワーモジュール

パワーモジュールとは、複数のパワー半導体を組み合わせて回路を1パッケージに集積化した製品のことです。

そしてIPMとは、Intelligent Power Moduleの略称でパワーモジュールに駆動回路や保護回路などを統合した高機能モジュールのことです。

IPMのメリットはさまざまな機能が集積していることによって省スペース化が可能となり、ユーザー側としては設計が容易となりシステムの信頼性が向上すためです。IPMの登場によってユーザー側がより一層パワー半導体が使いやすくなっています。

パワー半導体の進化の歴史

パワー半導体の歴史はまず、サイリスタから始まりました。

サイリスタはpnpnの4層構造を持ち、サイリスタによって大電力の制御が可能になりました。その後サイリスタを改良したGTOサイリスタが発明され、パワーバイポーラトランジスタやパワーMOSFETが実用化されました。そしてIGBTが発明され、改良も進みます。

近年ではこれらに加えて半導体材料としてSiCを使ったSBD(Schottky Barrier Diode)やMOSが実用化されています。

パワー半導体市場

市場全体

最後にパワー半導体の市場について見てみましょう。

パワー半導体の世界市場は2022年の見込みで約2兆円規模となっています。そして今後は成長が加速して2030年には5兆円を超える市場になることが予測されています。2020年と比較しますと、10年間で約3倍と急速な成長が予測されています。

半導体メーカー別の売上高ランキングでは首位がドイツのインフィニオンテクノロジーズ、2位が米国オンセミ、3位がスイスのSTマイクロエレクトロニクスと欧米勢が占めています。

日本企業は4位の三菱電機、5位の富士電機、6位の東芝、9位のルネサスエレクトロニクス、10位のロームとトップ10に5社がラインクインしています。

しかし規模では上位企業に対して見劣りしているのが現実です。各社は得意分野を中心に攻勢していますので、次に個別企業のトピックスを確認してみましょう。

個別企業トピックス

まずは三菱電機です。三菱電機では2021年から2025年に1300億円を設備投資する計画です。8インチ200mmラインを2022年から稼働させており、12インチ300mmラインは2024年から量産開始の予定です。ウエハを大口径化することで生産性を上げてコスト低減、取れ数向上が図られるようです。これらはすべてシリコン素子と考えられますが、三菱電機ではSiC素子も製造しています。

次は富士電機です。富士電機では投資額を1200億円から1900億円に増額しており、青森県五所川原市にある津軽工場でSiCの生産を2024年から開始する予定です。富士電機ではマザー工場の松本工場や8インチ主力工場山梨工場でシリコン素子を生産していますが、SiC素子にも注力していく見込みです。

東芝は子会社である加賀東芝エレクトロニクスの工場に12インチ300mmラインを導入し、さらに1000億円を投じて新製造棟を建設する予定です。新棟は2024年度内に稼働開始の予定です。

ルネサスエレクトロニクスは、2014年に閉鎖した甲府工場に900億円を投資して12インチ300mmラインを構築する計画です。こちらも2024年から稼働開始の予定となっています。

ロームは子会社のローム・アポロ筑後工場にSiC新棟を建設し2022年から稼働開始しています。さらに2022年から2026年の間に最大で1700億円を投資する予定です。ロームは特にSiC素子に注力しているようです。

最後にデンソーです。自動車部品大手のデンソーは台湾UMCの子会社であるUSJC三重工場に12インチ300mmラインを構築して2023年からIGBTの生産を開始する予定です。これが日本初となる300mmウエハでのパワー半導体生産になるとのことです。

このように各社パワー半導体の生産に大きな投資をしていますので、今後に期待をしたいところです。

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